Report

— 過去に撮影した作品の取材レポート。撮影時の舞台裏を、約2週間間隔でほのぼの更新。

レポート111
18 Mar 2024更新

2014年3月15日 撮影・権現岳


 前回のレポートでは「2月なのに暑い!」などと書いていた気もするが3月に入ってずいぶんと寒い日が多かったような今日この頃、桜も今年はかなり早く咲くかな、などと思っていたのだがピタリと止まりましたね。しかしながらちょっと暖かくなると花粉が飛び始めまして、、、今年はなんだか強くやられております。ここ数日すっかり花粉ガンギマリ状態になってしまい、何も考えられず生きてるのか起きてるのか全くわからない。昨年はこんなに酷かったかな。。。と思い返してみると昨年は九州に行っていたので被害が少なかったのだろうか。九州は花粉が少ないのかどうなのかはよくわからないが、何となく東京に比べたら少なそうである。
 正直なところ、コロナなんかよりもスギ花粉の方がよっぽど恐怖である。まあ、、、そういいながらマスクすらしないのでそりゃあ花粉浴びるだろと言われたらそれまでですが、それなら花粉アレルギーの薬を飲めばいいじゃないかと言われるかもしれないが、薬に弱い体質なのか鼻炎の薬を飲むとこれまたガンギマリ状態になってしまい、それこそ眠気で起きていられなくなるので薬も飲めない。じゃあどうしたら、って、対策としてはまあ口開けてボーッとしてるだけなんですけどね!!
 さて、今回の写真ですが、八ヶ岳は権現岳からの赤岳方面の展望です。先日はNHKBSで「山の顔」をテーマに撮影をさせてもらいましたが、赤岳もまた、角度を変えると結構見栄えが変わる山であります。木曽駒と違って、大抵はどこから見ても屹立としていて格好いいですが。。。赤岳もやはり「ココ!」という場所がありますが、ここ権現岳からは赤岳の眺めもさることながら、「険しい八ヶ岳」的な顔を見せるので好きな場所でもあります。
 撮影は2014年3月15日、雑誌の巻頭連載の撮影で入りました。登るだけならともかく、撮影を考えるとさすがに朝イチで歩き始めないと結構キツキツになってしまいますので前日は甲府に泊まり翌朝小淵沢へ、小海線に乗り換えて甲斐大泉駅へと向かいました。駅からは予約しておいたタクシーに乗り、天女山入口のゲートから歩き始めます。2014年といえば2月に超・大雪があったこともあり、このときの積雪はなかなかのものでした。なので絵的な意味では全く心配することなく雪山が撮れるのでよかったですし、ちょうど暖かくなってきて雪も締まり歩きやすくなってきたのでまさに撮影日和でございました。
 ということで雪がたっぷりの状態から歩き始められるのは靴も汚れないので快適、まずはひと登りで天女山を越えて天の河原へと参りました。今思い返すとやたら荷物が重かった記憶があるのですが、幕営道具や食料は背負ってないから重いはずはない。でもなぜかのっけからそこそこ息が上がった記憶があるのは暖かかったからでしょうか。とにかく春がやってきた、というくらいポカポカ陽気だったような思い出はあります。
 天の河原で十分に雪があるので私はここからスノーシューを装着、リフターを立てて楽々斜面を登っていきます。できる限りできるところまでスノーシューで登る会の会員としては、やはりできるところまでスノーシューで登りたいところ。ちょうどこの三日前くらいにもこの権現岳に来ていたのですが、そのときは編笠から回ってきたのでアイゼンを着けておりました。今回はそのままスノーシューで上がってしまいましょう。一般的には山頂付近はあまりおすすめしませんが、雪がガッツリついていればいけるでしょう。少なくとも登りは(下りはアイゼン着けるんかい)。しかし、、、その三日前はだいぶ冬山っぽく寒かったのに、この何日間でこうも違うものかと思うくらい暖かい日でした。春山って雪質は微妙だけど、やっぱり気持ちいいですね。
 時折この巻頭連載の話を出しますからおわかりの人も多いと思いますが、基本、表紙タテに1枚、扉タテに1枚、見開きヨコ1枚、あとは小さいサイズのカットが5枚ですので計8枚しか撮らなくていいんです。まあせっかく山に来ている以上、良さげなカットは撮るし、もちろん8枚以上撮りますけど、自分で編集もしている以上「これでいい!」と思えば最低8枚しか撮らなくても成り立つという見方によっては気楽な仕事ではあります。とはいえ「表紙」が絡んでいて「巻頭連載」なわけだから決して気を抜いてはいけないし、適当にやればそれなりのものになるのでとても気楽なんて言えたもんじゃないですが、ともかく何から何まで撮りまくらなくてはいけないということはない。それだけでもだいぶ気は楽、というところでしょうか。なわけで天候に恵まれて雪バッチリの春山、まあ余裕でしょうくらいに思っていたのですが、案の定行程が短いのでカットが同じような感じになることもあり、、、一応事前に考えてきたものの、あまりにも行程中景色が変わり映えしないのでやや焦った思い出があります。まあ、それでも山頂に立てばバーン!と例の景色が広がりますから、なんとかなるでしょう。
 じわじわと標高を上げて歩き始めから約3時間くらいで三ツ頭に到着。ここまでくると権現岳まではあともうひと登りです。三ツ頭から少し下り、ちょっとした樹林帯で同行者にアイゼンを着けてもらいました。アイゼンを着けているシーン、、、こういうどうでもいいところで1カットでもこなしていかないと全部同じカットになってしまいがちな行程ですので致し方ないのですが、まあこういうのも登山の空気感みたいなものが伝わるとは思いますので許してもらえますよね?一応バックにボカしながら赤岳を入れているわけですが、そういう細かいところ、伝わるかどうか。
 さて、あとは山頂に登るのみです。ここからはやや傾斜があってそこそこ高度感のある写真が撮れるので、扉用のカットと決めておりました。実際撮影は3月ですが、載せるのは5月号になるのでGWっぽい感じを出すためにも薄着で歩く雪山、というものをイメージしていたんですが、いやしかし本当に暖かい日でよかった。北アルプスのGWと言えばバッチリですが、実際は5月の八ヶ岳にこんなに雪はない!ですがここはお許しを。傾斜のある斜面をアイゼンでザクザクと登っていくカットを撮るわけですが、ただ歩いているだけでは臨場感や躍動感がでませんので、モデルさんの体の角度や足の角度を気にしながら何枚も撮ります。映像じゃないけれど、いくらかダイナミックな躍動感が出るように、ちょっと大袈裟にザクザクを雪を蹴りこみながら歩いてもらい、その間の良い瞬間を見計ってシャッターを切ります。足の裏の見え具合が大事なんや!(誰?)と何やかんやで納得のいく角度になるまでに結構時間がかかります。撮ってみては、う〜む、これじゃない。の繰り返し。その希望の角度でストップしてもらえばいいと思う人もいるでしょうけど、やっぱり止まっているカットと動いているカットでは雲泥の差がある。「まさに今、雪面を蹴り込もうとする足のオーラ」がないとダメなわけです。と言いながら、ストップさせて撮ったりもしてたような思い出。。。よくこういうときにカメラマンさんによっては連写でこなす人もいますが、私はそういうのが好きじゃないので「ここぞ」というときにシャッターを切ります。あ、いや、スキー回のときはさすがに間に合わないので連写だったような。。。ま、まあ動きの激しいスポーツなら連写しないと追いつきませんが、こういうもっさりしたシーンはなるべく「自分でその瞬間を選んだ」感が必要だと勝手に思っております。まあその方が楽しいので。
 そういうわけでそこそこ急な傾斜を歩き、岩を回り込むところを気をつけてトラバースしまして、無事スノーシューで権現岳に登頂致しました。12時40分、雲ひとつない無風快晴の山頂です。最高点はスルーしまして、北側の赤岳方面の展望が開けるピークへ向かい、メインの撮影をします。やはりこの場所から南八ヶ岳の展望は素晴らしいです、何というか破壊力があります。一番高い赤岳の角度はもちろん、それに付随するような阿弥陀岳の位置もいいし、手前の旭岳も立体感を出すのに一役買っています。大天狗、小天狗の岩峰と大同心が赤岳の両肩にあるように見え厳つい肩パッドをしているようで迫力があります。ここからの冬景色の朝焼けか夕焼けをまだ撮っていないのでそのうち撮らねばと思っているのですが、なかなか暇がなくて撮ってないんですよね。ちなみにこの時期3月だと太陽が結構真横から差すのでべったりしてしまい影がつかなくて微妙な感じになります。年末くらいの角度がいいのですが、近年は年末だと全然雪がついてなくて撮るに値しない。なかなか難しいものです。
 さて、このダイナミックな風景を背景に、モデルさん入りで表紙を撮ろうと思いますが、、、!人を入れてみると背景がこんないい景色なのに何とも難しい!なぜかと言いますと、風景だけならいいんですが高さと広さがないんですね。モデルさんが若干下るか、こちらが少し高台から撮れれば絵に立体感が出るのですがここは結構顕著なピークで、下ると言っても垂直のハシゴになってしまいますし、こちらがちょっと高めから撮れるような高台もない。じゃあもう少しピークに広さがあればなんとかできそうですが、モデルさんとの距離も取れない。なんかこう、非常にべったりとした、つまらない構成になってしまいがちです。こういうダイナミックな場所あるある、と言えばそれまでですが、う〜む、こればかりはもっと簡単に撮れると思っていたので、、、脚立でも持ってくるべきだったかな?

八ヶ岳は広い

 そうこう苦労しているうちに山頂では1時間以上経過しておりました。なかなか撮れなくてすみません。。。もっとすんなり終わるはずだったのですが、思いのほか納得いくまで時間がかかってしまいました。では、ここで無事終了。下山致しますか、となればよかったのですが、、、そりゃ山頂は大観で素晴らしいのですが、ここは表紙と見開き、となるとあとは扉と大きなカットは撮り終えましたけど、小さいカットがまだ埋まりきっていない。まあひとつは富士山でお茶を濁すとしても、もう1カット、何か意味のある絵が欲しい。同じような意味合いの絵が被っても意味がないので、写真の意味合いを散らす必要があり、それがやはりこの短い行程では撮りきれなかったということである。何かやるにしても被る。じゃあお茶飲んでるカット?としてもアイゼンカットと被るし、モデルさんの表情アップとかで濁すと今度は山とはかけ離れる。さて、どうしたものか。下山カットも思いついたが、それは捨てカットにしかならないだろう。そこで思いついたのが、三日前に歩いた方面、ギボシ方面の厳しい登りのカットを入れてみてはどうだろう、ということだった。
 権現岳からギボシを回るとそこもなかなかの急斜面だし、結構厳しい登山をしているという今までの中にはないカットにはなる。ただひとつ思うことは、権現岳だけ登ってサクッと帰るつもりでいたのが遅くなりそう、というところか。いやしかし、であればギボシの斜面で撮って、そこだけで来た道を帰ればたいして時間は変わらないだろう。ともかくそういうことでもう1カット、小さい1カットのためにギボシへと向かったのでした。
 さすがにギボシのトラバースはスノーシューでは厳しいので私もここでアイゼンに変え、いざ出陣。先に急な斜面を登り、上から望遠レンズで登っているところを撮る。うまく距離を取りながら、もうちょっともうちょっとと欲を出してはいくらかいい絵が撮れるところまで進む。何枚か撮り終えて、まあ、いい感じなんじゃないだろうか。これにて終了である。じゃあ戻ろうか、と思ったが、思いのほか進んでしまったのもあって、なぜか私もよくわからないのだが、盛り上がってきたからなの何なのか、私の中の星一徹的な何かが発動してしまい、「せっかくだから編笠周って帰ろうか」ということになった。このとき午後2時なので、まあそりゃ天気はもう申し分ないし暖かいし、でも結構厳しい時間帯なのだが、天気や気温がそういう気分にさせたのか、編笠周ってもサクッと下山できるでしょ、八ヶ岳だし、と思ってしまったのでした。しかも編笠からはせっかくだから歩いたことないコースで帰りたいと思い、富士見高原に抜ける道を選ぶことに。ギボシから先はもう写真を撮ることもないのだからあまり必要のない行動なのだが。。。
 そんなわけで青年小屋を経由し、編笠山に着いたのは午後3時半。なかなかの西日になってきており、これはこれで綺麗だが下山は何時になるんだろうか。まあ下り始めたらコンパクトな八ヶ岳だし、すぐだからね、くらいに思ってました。しかしそんな想定とは裏腹に、編笠からの下りは歩けどもなかなか終わらない。これ一体いつまで続くんだよ、と思っていたら林道っぽいところに出たのでようやく終わったかぁ、と思ったらそこからもまだ歩く。ゴールの富士見高原ゴルフ場はまだかと焦ったくなってくる。当然あまりペースを上げると同行者に悪いので上げられないし、走り出してしまったらそれこそ拷問である。だいぶ下ってくると汗の量も増え、ペースも上げられず、西日というか夕日に近い太陽が憎たらしいくらいこちらを照らしてくる。何でこんな面倒なことしたんだろう?と思わなければ気持ちの良い登山であるが、思ってしまった私は一体何がしたかったのだろう?ようやく下山口に辿り着いたときは午後5時をまわっていた。思っていたより、八ヶ岳は広かった。。。

 しかしながら
 そんな焦りも全く見せずに
 「なかなか楽しかったね」と
 呟く私

 同行者は思ったに違いない

 この人は一体何がしたかったのだろう?と

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