Report

— 過去に撮影した作品の取材レポート。撮影時の舞台裏を、約2週間間隔でほのぼの更新。

レポート108
11 Dec 2023更新

2017年12月6日 撮影・大菩薩嶺


 久しぶりに山でレポートを書いておりますが、順調に今日で停滞3日目であります。外は吹雪の非常に厳しい環境の中、何とか気持ちを和らげようと頭を動かしたり、手を動かしたりと工夫して耐えております。停滞も何日か経つと正直「いい加減何やってるんだろう?」「こんなことやってていいんだろうか?」と自問自答ばかりする時間が増えてきてしまいますが、山というのは晴天が少ない環境ではありますので、こうして何の意味もないような停滞の時間も、素晴らしい天候の下で撮影をするには必要なことなのでしょう。まあもちろん、個人で撮影に入る場合はもうちょっと天候を見てから合わせるように動きますが、今回もテレビのロケで訪れておりまして、大所帯だとそう身軽に動けるわけでもありません。なのでどうしても停滞日は増えてしまうのですが、でもそろそろ明日あたり晴れそうなので強張った体をほぐしてうまく動けるようにしたいところです。
 と、ここまで読むと寒いなか大変そうだなぁ〜と思うかもしれませんが、すみません、山の中でもホテル泊なので。。。暖房きいてるし、wifi飛んでるし、のんびり布団に寝転びながらレポートを書いております!しかしながらだからこそ「これでいいのか?」と自問自答してしまう訳ですが、何で人間は楽な思いをすると「これじゃダメになる!」って思うんでしょうね。そもそも楽になりたいから普段頑張っているような気もするのに、楽になると落ち着かないのは私だけでしょうか。
 ホテル泊で停滞なんて楽じゃないか!と思われるかもしれませんが、そんな中でも今回も入浴シーンで苦労してますので何卒お許し下さいませ。完成度の高いカットを撮るために何度も撮り直しますので、のぼせてのぼせて本当に大変なんですよ!ダメ?甘いでしょうか。
 さて、今回の写真ですが、大菩薩嶺でございます。大菩薩に登りに行った話ではなく、大菩薩を撮りに行ったお話しです。というのも大菩薩嶺はもちろん登っても気持ちの良い山ですが、はてどんな山容?といったときに登って撮れる山ではありません。となるとやはり少し離れて撮るしかないのですが、高山と違ってなだらかな山容はやはりなかなか難しいものがあります。
 確かに大菩薩の峠から山頂方面の絵面でも「大菩薩嶺」と銘打つこともできないわけではないですが、ちょっと近すぎてどんな山容なのかは伝わりづらい。例えば駒ノ池から会津駒ヶ岳やただの広い湿原を撮っての苗場山、などはその場所の特性などから成り立つとは思うのですが、大菩薩の場合はそういう特性みたいなのを活かしきれていないからちと厳しいかな、と思うわけです。だからといってただ山容か格好良く見えればいいわけでもなく、北側の黒川鶏冠山からは尖って一見見栄えは良くなりますが、果たしてなだらかな山という社会的認知度が高い大菩薩嶺らしいと言えるかどうか。
 そんなわけで、上記のようなことをまずは頭の中で色々と考えまして、地形的、地質的、植生、文化的意味合いなどを踏まえた上で大菩薩嶺の代表的な山容を撮りたい、という訳です。こうなると大菩薩嶺というのはなかなか難しいですよね。比べて槍ヶ岳とかはいかに簡単か。。。と。
 まあそんなわけで私としましては大菩薩嶺が美しく、かつ色々な意味を入れ込んだ山容はどこから撮るのが良いかと考えまして、この山は麓からよく見える山でして、山のなだらかさや古くからの人との繋がりを考えるとストレートに山梨市あたりから眺めるのが良いのでは、と思う訳です。もちろん西側の麓から眺めると思いっきり山腹に電線が走るのですが、そこは電線がなかった時代に思いを馳せて頂いて、その山容、多くの人々に望まれる山容を注視して頂きたい。
 さて、こちらの撮影は2017年12月6日でございます。いくら山容に意味合いを持たせたといってもさすがにただストレートに撮っても厳しいですから、なるべく西日、夕焼けも含めて午後に撮ろうと思うわけですが、せっかく出かけるので午前中は中央線沿線の低山をひとつ登ろうと思い、まずは寄り道ということで中央線の猿橋駅で降りまして百蔵山へと向かいます。電車の車窓から、はたまた高速道から際立って見える台形の山で、ずっと気になっていたのですが登りに行くのは初めてでした。
 猿橋駅の標高が約300m、百蔵山は約1000mの山ですので低山といいながらも700mも登らされます。でも登山口は標高550mなのでそこまで車で行けばまあやはり低山か。駅から途中まではバスもあるようですが、せっかくなので歩いていきます。やっぱり歩けるところは歩いたほうがその土地の空気をよく感じられるといいますか、何か見つけられるような気がします。何かって言われても困るのですが。。。んでもって何か見つけたかと言われるとこれと言って何もみつけてはいないのですが、空気感?はわかったような気がします。。。でもそれでもどんな土地柄のところにある山なのか、もしくはそんな土地柄の場所を抱える山、ということが感じられるだけで、その山の何か特性は感じられるかと思います。だって、山は好き勝手に動くことはできませんから。
 朝7時15分に猿橋駅に到着致しまして、ぶらぶらと歩いて行きます。駅からは約3km、今年の感覚からは考えられないくらい少しキュッと引き締まった冷たい空気が肌に感じられた覚えがあります。朝方だから、というのもありますけど、やはり今年はちと暖かすぎですよね。。。でもこの頃だって以前に比べたらなかなか冬にならんなぁ〜なんて思いながら歩いていたような気がします。登山口まで標高差で約250mありますからそこそこ登るんですが、やはりなだらかな道路だとそんなに感じないものです。駅からすぐに桂川を渡り、高速道をくぐってもう一回橋を渡る。まっすぐ正面に登る百蔵山が見えているのがいいですね。途中大月市の総合運動場を通り過ぎますが、総合運動場といえばやはり陸上競技場に反応してしまう私でありました。走ったことのない場所の陸上トラックで走ってみたい。。。と思いましたがチラ見すると土トラックでした。すみません、スルーです。
 急に現れた浄水場を過ぎて駅から約30分弱で登山口に到着、よくよく思い返すとなぜかここまで誰一人として人を見かけなかったなぁと思いつつ歩き始めました。なんだかこの先もこの山では人に会いそうにない感じの静けさが漂っております。登り始めるとさすがに冬らしい景色で、樹林帯ではありますが多くの木が葉を落としているものですから空の抜けがいい。冬は寒いですがこういう開放的な景色が心地よいです。低山の割に550mも登るのかぁとちょっと面倒くさがってしまいましたが、思いのほか急な登りにやる気を出し、30分くらいで山頂に到着してしまいました。
 麓から見て台形、つまり山頂部が平たい形の百蔵山は、登ってみるとイメージそのままで小広い平らな頂上になっておりました。登ってパッと目につくのはやはり富士山、山あいの甲斐路の先に見える景色はなんとも素晴らしい風景であります。個人的に富士山は河口湖や山中湖あたりのもうドカンと見えて迫ってくる富士山よりも、こういう前景がある方が好きだったりします。奥行きが出るのもさることながら、なんというかただ自然の風景というわけではなくて人と山との繋がりを感じられるというか。昔の人もこの景色を見たんだろうなぁ、という感じが強い気がするんですよね。ここに登ってくるまでに人と会わなかった割には、なんだか風景に人気を感じほっこりしてしまいました。
 そんなこんなで誰も登ってこない山頂で1時間くらい撮影をしておりました。南西側しか開けてはいませんが、富士山もいいし見下ろす麓の景色もいい。低い日差しにキラキラと輝く桂川がよく見えます。山頂にはちょうど富士山のほうに桜の木があるので春は桜と富士山が撮れるなぁ、などと思いましたが、春は春で霞やすいからなかなか難しそうでもある。桜の時期にこの界隈で桜と富士山を撮ろうと思ったら晴れてはいるんだけどこの距離でも富士山が全く見えなくてまいったことがありましたので、ちょっと怖い。最近は気温が高いこともあって余計に怖いですわ。
 下山を始めるとさすがにスルッと下れましたがなぜか登りよりも時間がかかった模様。こっちの方が距離があるのかな?下りの尾根の途中でようやく登山者に出会いましたが、それが10時すぎくらいなので人と出会わなかったのはまあ私の歩き始めが冬にしては早かったのだろうか。まあそういうわけで午前の部はこれにて終了、せっかくだから帰りは行ったことのない猿橋に立ち寄りましたがやはりここでも人と出会いませんでした。この辺りには人がいないのか?
 猿橋駅から山梨市駅へと移動し、ようやく本日のメインである午後の部に突入であります。天候は雲ひとつない晴れ、このまま夕方までもってくれることを祈るばかりです。目指す目的地は至る所にある恋人の聖地、笛吹川フルーツ公園であります。歩き始めたのがちょうど午後1時ごろ、バスやタクシーで行ってしまってもいいのですがなぜか歩いて行きました。距離が3kmくらいしかないから余裕でしょ、などと思って歩いてはみたが案の定標高差がそこそこあり、1時間近くかかってしまいました。途中何軒か食事処があり誘惑されましたが、ともかくなるべく早く目的地に向かい夕方までに撮影ポイントを探らなくてはなりません。ので昼食は行動食で済ませます、がいつも思うがこの辺が微妙ですよね。時間が惜しいならタクシーでパッと行って、その間に店で食事をとることもできるだろうに、何だか我慢すると頑張ってる感が出るんだか何だか、逆に時間を無駄にしているような気もする。いやまあタクシーなり食事なりすると単にお金がかかるから、単純に貧乏性なのかもしれないが。
 笛吹川フルーツ公園から撮る、なんていってもいくらか広さはありますので要はベストポイントを探らなくてはいけません。正直結構障害物もありますからただ単純に大菩薩嶺に近い東側に行けばいいというものでもありません。まあそう言いながらまず最初に安易に考えて東側に向かったのでありますが。。。行けば行くほど少しずつ高度も下がりますので、せっかくなら山の麓に広がる民家も入れたいなどと思うとあまり良策ではありませんでしたし、何せ電柱やいろいろな障害物が邪魔をします。道路の真ん中から撮るわけにもいかないし、一応少し撮りましたが案外しっくりきてしっかり撮れるポイントがなかったのでありました。
 そんなわけで今度は西側の高台へと向かい、展望の良いところへと移動しました。今度は周囲が開けて展望は良いのですが、公園自体がなだらかな坂状のところに位置しているため手前に広い公園が入ってしまいます。案外がっちり大菩薩嶺だけを切り取れるポイントが見つからずちょっと焦ります。日の入りは午後4時30〜40分くらいですから、なるべく早くにスタンスを決めないと一体何しに来たんだか、であります。こういうのは風景撮影ではよくあることですよね。桜とか、よく認知されている撮影ポイントなどはもうどこから撮るとこの定番アングルになるとか開発されまくっていますけど、それもこれも先人の調査の結果であったり、人気の場所だったりするからすぐここだというのがわかるわけですが、コロンブスの卵といいますか、そりゃ見つけちゃえばどうってことないけどやっぱり見つけるまでが大変だったり。ともかくうまく切り取れるように少しずつ階段を降りてはファインダーを覗き、少しづつ探ります。傍から見たらこいつ何やってんだろう、という感じではあるのでちょっと恥ずかしいですが、やっぱり周囲に人がいないのでこれといって問題ないようです。そうこうしてようやく見つけた位置ですが、実は本当に絶妙。一段階段を下ると画面右に球状ガラス張りレストランの建屋が入り込むし、一段上だと左に樹林がちょっと邪魔をする。まさにここしかない、という位置でようやく見つけたわけですが、写真を見る限りだとそんな感じが全くしないところが恐ろしいですね。まるですっきり抜けた展望台からこんな感じで眺められそうな感じがします。この写真を見て同じように撮ろう、と思っても(もちろん他にもポイントはあるかと思いますが)結構時間がかかるんじゃないだろうか。ドローンとかは無しね。そしてこの写真を見て同じような感覚の景色を見ようと思ってここに来ても、ちょっと印象が違うんじゃなかろうかルンバ。

なぜ人がいない

 撮影ポイントが決まったのであとは夕暮れを待つのみである。気持ちに余裕ができたのか、気がついたらレストランでデザートを食べていた。う〜む、山上での撮影に比べると格段に楽である。まあしかしたまにはこういう撮影もしないと、毎回殺伐とした環境での撮影ばかりしていると気持ちも疲弊するというものである。そう思いながらもケーキをフォークで分け、温かいコーヒーをすする。なんだこれ。だめだな、やっぱりこんなことしていると鈍ってしまいますよ。だがしかし、今日やれることはこのくらいのことしかないのだよ。ただとりあえず気になるのは、やはりレストランも人がいない。もちろん店員はいるのだが、客はいない。そりゃ平日のこんな時間誰もいないだろと言われたらその通りだが、じゃあなぜ店がやってるんだろう。土日だけでもいいような気もするが、、、たまたま今日は人がいないだけなんだろうか。
 そんなわけで午後4時前くらいに余裕の撮影開始。西日を浴び、少しずつ夕日のラインが大菩薩嶺の稜線へと駆け上がっていき、山肌は色濃く染まっていきます。山腹に思いっきり電線が走りますが、それが今の現実なんでしょう。しかしながらこの地形と、山と人との距離はそう変わるものではないと思います。ゆったりした山容はまさにこの山の景色だと思います。きっとおそらく昔から多くの人に仰ぎ見られた景色でしょう。そう思います、いやそうでも思わないとこの寒い中やってられん。ちゃんと解釈しての撮影なのか、はたまたただの自己満足なのかわかりませんが、ともあれ太陽は思いっきりベタベタに影もつかないくらい真っ正面から当たっていましたが、雪山でもないのに思いのほか赤く染まった姿は山容は地味でありながらもまさに名山と言わざるを得ないものがありました。
 公園から帰りのバスが午後5時ちょうど、大菩薩嶺の撮影は終わりましたが時間が少し余ったので富士山も撮影しようとちょっと高台へと移動致しました。ひとつ山なみの向こうに頭を見せる富士山ですが、見下ろす甲府盆地の風景との相性がいいのかそんなに悪い景色じゃありません。言うなればちょっと富士山雪少ないかな、、、というところがありますが、日が暮れて本当にひっそりと静まりかえった優しい風景でした。できればもう少し粘って夜景が広がるまでいたかったですが、流石にバスの時間までに綺麗な夜景が広がることはありませんでした。もうちょっと暗くならないと夜景は目立たないかな。ちょうどこの高台の先に立派な富士屋ホテルがあるのですが、できるものならこんなところに泊まってゆっくりのんびり撮影を楽しみたいものである。まあそんな日は永遠に来ないだろうな。何でって、ゆっくり夜景撮っても十分歩いて帰れてしまうので。もうちょっと帰れなそうな距離だったらなぁ。

 そんなわけで無事撮影も終わり
 バスに乗り込んで山梨市駅へと下って行きました。

 バスの中も
 やはり人がいない

 もちろん運転手はいるのだが

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