Report

— 過去に撮影した作品の取材レポート。撮影時の舞台裏を、約2週間間隔でほのぼの更新。

レポート92
12 Jul 2022更新

2011年7月11日 撮影・「甲斐駒ヶ岳」


 最近どうもおかしいと思っていることがある。荷物が重いのである。フィルム時代は確かに重かった。テントや食料、登山道具に加えてブローニーカメラを3台、レンズ何本か、場合によってはこれにプラス35mm1台、夏で35kgを背負って重くて辛い思い出しかない。それでもコースタイムの半分で歩いたものである。そこから機材はデジタルになり、だいぶ楽になった。カメラは場所や環境によっては1台で済ますし、サブ入れても2台、レンズ、これは有難い、だいぶ楽になったものだと喜んでいたような気がする。だが、最近どうも重いのである。
 気づくと機材が増えているような気がしないでもない。カメラは映像カメラが増え、スチルは場合によっては2台、スライダー、重くて固そうな電動機材3種ほど、充電器具一式、ドローン、おい、ちょっとまて、フィルム時代より増えてないか。。。?という感じである。つい先日はいかにも重そうなザハトラー雲台を持っていったにも関わらず使わないで終わってしまったという哀しい状況。意味もなく重いものを担ぎ上げて使わなかった、というのはなかなか精神的にも堪えるものがある。いや、雷鳥がいたら使おうと思っていたんだけどね。。。
 よくよく考え、、、なくても、テレビロケなどはしっかりと歩荷さんがいるものなのだが、う〜む、何もかも一人でやっているというのもなかなか苦行であります。何だかんだで出かける前から精神統一しないと心配だし、ウェイトトレで鍛えてはいるけどどうなんでしょう。たまにはのほほんとランチだけ背負って、のんびりハイキングなんてしてみたいものですが、まあ、、、できないだろうなぁ。できるかできないか、というよりかは絶対やらないと思う。それほどまでに「登るなら撮る」という情熱が強いのであります。いや、違うな。情熱というか何だろう、もはや「カルマ」みたいなもんなんでしょう。もうどうしようもない、気づいたらもう背負ってましたよ、みたいな。こち亀で言うと、鉄人レースで背負わなくてもいい米俵背負ってる感じ。まあ、元からそういうようなもんか。よし!行けるところまで行ってみよう!
 さて、今回の写真ですが、南アルプスの貴公子・甲斐駒ヶ岳でございます。レポートでの登場回数は少ない山でございますが、何だかんだで何度も登っており大好きな山です。眺めても良し、登っても良し、の山ではありますが、案外その他のどこの山からも離れているが故、山頂の展望はいかにも「大展望」というところもあり、大パノラマではありますがこの頂から撮るのに狙える山があるかと言われるとなかなか難しい場所であったりします。逆に言ってみればその景色をどう物にするか、は撮る側の腕の試しどころでもあったりで、撮り手としてはなかなか楽しめるところという感じでしょうか。
 望遠で切り取れば鳳凰越しの富士山や北岳など、それなりには撮れますが、とは言え切り取りに頼りすぎると現場感は失われます。そういう切り取り写真と大味の風景をうまく絡めて表現するのは頭を使う作業であり、普段からどれだけ山の風景で「何か」を伝えたいと思っているか、考えているか、という心構えが如実に出ると言ってよいかと思います。言ってみれば北アルプスは笠ヶ岳の山頂が似てるかな?穂高を切り取ればそれなりに絵になりますが、「笠ヶ岳の山頂」感はそれだけだと薄い。いかに「笠ヶ岳の山頂感」も絵の中に取り込んでいくかは予めそういう考えがあってできるものだと思います。でも、こういう位置の山頂って難しいよね〜。
 まあ、山頂での話はそうなんですけど、眺める山としての甲斐駒は本当にいろんなところから絵になりますから、この山を撮る分には非常に撮りやすい山でもあります。いやしかし、仙丈ヶ岳からはあまり上手く撮れる感じがしないんだよなぁ。。。藪沢くらいまで高度を下げると撮れるんですが、小仙丈から仙丈ヶ岳間では摩利支天のせいなのか、案外標高の高い仙水峠のせいなのか、ややちょっとお間抜けな感じもいたします。しかし鋸から見てもいいし、北岳から見てもいいし、麓からももちろん素晴らしい。しかし私が甲斐駒を眺めるのに一番と思うのは栗沢ノ頭でしょうか。大きさといい、高さといい、貴公子感といい、いろんなもののバランスが良いよう思います。このときの撮影は少なくともそこだけはしっかりと抑えようと思って出かけたような気が致します。
 2011年7月8日に入山。梅雨時にも関わらず天気が悪くなさそうなので、これはと思って入山致しました。甲府経由で北沢峠に着いたのは午後3時ごろ、夏らしくすでに空は曇っておりましたが、テントを立てているとぼちぼち雲が開けてきた感じがしましたものですから、夕方にかけてとりあえず栗沢ノ頭に登りました。まあ結局この日は微妙な天候でして、風が強かったので雲が少し取れてきましたが、ギリギリ夕日は拝めたもののただそれだけ、甲斐駒もうっすら姿を現したくらいです。でも何もやらないよりはよかったかな、と。体を動かすと何か仕事した気になる私でありました。
 翌日9日はサマータイム時期らしく3時前にテントを出発、日の出に合わせるようにだらだらと登って小仙丈へ。森林限界から出たときはかなりしょっぱい空模様でしたが、どうなんだろう、何とか晴れてはきそうな感じでした。朝一番の日の出〜朝の光の時間帯は全然ダメでしたが、6時半くらいから次第に青空の面積も増えてきてなかなか良さそうな感じに。でも何となく光線が弱いのでひとまずはこのくらいかな。。。というところで小仙丈を切り上げました。もうちょっとばっちり光が当たればそれなりなんですが、まあでもこの時期はカールにダイレクトに光が当たってあまり影がつかないのでこんなもんと言えばこんなもん。小仙丈からは山頂に登るだけならあとひと息ですが、馬の背側の景色が撮りたいので一度下り、藪沢小屋から馬の背経由で山頂に向かうことにしました。それなりの天候でしたが結局2時間半も小仙丈にいたのか〜。
 馬の背からは結構がっつりと青空が広がる感じで、標高の関係からちょうどダケカンバも新緑の装い、爽やかな風景が広がっておりました。馬の背の風景ももちろん好きですが、仙丈小屋あたりまで登って見下ろす馬の背もすばらしい。たおやかな馬の背の稜線の向こうに荒々しい鋸岳、そしてその奥に八ヶ岳、の三重奏、天気が良ければもうひとつ後ろに浅間山の四十奏とくるのですが、このときは夏らしい雲に阻まれておりました。本当ならこういうところで何もせずただのんびりと景色を眺めて過ごしたいところですが、景色が撮れなくなったら花撮ったりとか忙しい私は果たして幸せなんでしょうか。好きで撮影目的で来ているのはわかりますが、ただボーッとできるっていうのもやはり幸せですよね。だがしかし私の人生にそんな時間はない。
 小仙丈からぐるりと回って9時ごろ、ようやく山頂に着きました。北岳と富士山の景色はいつものことですが、その他はこれと言ってあまり撮りどきの時間帯でもなく、山頂周辺に咲いている花を一生懸命撮っていたような記憶がございます。ひと通り撮って下山、お昼には北沢峠に着きました。さすがに2時すぎ起床、3時前から動いておりますから頭ももう自分が何をしているのかよくわからない状態です。といいながらこういうときほどなぜか気合いが入ってくるもの、少し休んでから登山道調査を兼ねて藪沢ルートを登り始めてしまいました。再び峠に戻ってきたのは夕方5時ごろだったか。ゆっくり休めない人である。
 さて、翌10日は前日の疲れもあってか、言い訳か、日の出には間に合わなそうな4時出発。テントを畳んでたからかな。それでも5時には栗沢ノ頭におりましたからお許しください。しかし晴れです、晴れ。がっつり晴れ。やや早いですがこれはおそらく梅雨明けただろ!という昨日とは違うスコーンと抜けるような青空が広がっておりました。そして目の前には堂々たる甲斐駒の姿ですよ。もう言葉もありません。栗沢ノ頭は人通りも少ないし、展望もいいしでゆったりできる場所という感じではないですけど気持ちがいいです。ゴツゴツ岩が多いからゆったりできないのかな。だけど、このくっきりの青空、コメツガシラビソ林に浮く新緑のダケカンバ、そそり立つ摩利支天、んで甲斐駒ドーン、ですよ。すばらしい。もちろん雲が湧いても迫力があっていいですが、このすっきりと晴れた姿はやはり美しいです。すでに何回もここには来ていましたが、ようやくです、すっきり晴れたの。ということでいつものように、この栗沢ノ頭で2時間半ほどずっと撮っておりました。甲斐駒の展望が良いのはもちろんですが、振り返ってアサヨ峰の景色も良し。北岳は、もうちょっと高くに登った方が良いかな。。。
 ここからは仙水峠に一度下って、駒津峰、山頂を越えてこの日は七丈小屋へと向かいます。9時ごろに駒津峰を過ぎたあたりで結構雲が湧いてきてしまいましたので、山頂はほぼ素通り、11時半には七丈小屋に到着しました。すっかりガスです。まあこの日は朝にしっかりと目的は果たせましたので十分満足、むしろガスってしまってくれて有難いほどです。テントを張って早速コーヒーを飲んだ後、昼寝の時間と致しました。入り口を半開き状態で寝てましたので、途中雨が降ってきてポタポタと顔に落ちる水滴で目を覚ましました。
 夕方5時半くらいにガスがパァァッと晴れてきて、テント場から向かいの鳳凰の稜線が見え、綺麗だなぁなんて悠長に眺めていたらちょうどその右上に虹が差し、、、「な、眺めてる場合じゃねぁだろ!!」と焦って三脚を立てて撮影に励んだのをよく覚えております。

梅雨は明けたのだ

 ということで最終日の11日。朝は4時前にテントを出まして晴れ晴れの山頂を目指します。途中九合目あたりから見る北岳が好きなので、この辺りで日の出を迎えました。赤く染まる北岳、、、というとドラマチックですが、夏の朝焼け夕焼けはちょっと色が暗いので私はそんなに綺麗だなぁとか思ったりしなかったり。やっぱり緑は元気のいい光に照らされてナンボだね。
 5時過ぎごろに山頂到着、この日一番乗りでございました。しばらくして一人上がってきましたが、山頂にいた間は終始そんな感じで静かな、静かな山頂でした。鳳凰山の向こうに構える富士山はもちろん絵になりますが、やはり北岳を筆頭にずっと奥まで遠くまで続いていくような赤石山脈の山なみが美しいです。南アルプスのほぼ突端から南側をずっと見渡す風景。もちろんそのほか北アルプスもしっかり見えておりましたし、おそらく梅雨が明けた気候、澄み渡った空気感は白山までも見渡すことができました。
 とういうことで今回の写真でございます。甲斐駒山頂から赤石山脈を拝むような、そんな風景を撮ってみたのでした。「拝むような風景」というのはただ単に見えている風景を切り取ればいいものではなく、やはり拝んでいる人の存在感もなくてはなりません。絵を鑑賞する人も自分が拝む人の感覚になれるような、そんな感じです。とは言っても単純に足元の部分を入れればいいというものでもなく、やはりそこからは構図的に絵になる素材を探さなくてはなりません。そこら辺が雑だと、迫力やら、山並みに向かっていくスピード感やらが失われて中途半端な絵になってしまいます。山並みに向かっていくスピード感がないとただ単に風景が写っているだけで、対象に対する強い憧憬が弱くなるわけです。
 山頂での撮影を終え、下山に取り掛かります。今までずっと北、西、南側だけ見ていましたが、ふと下る側、東側を見ると麓の広い風景が目に飛び込んできました。山ばっかり見ていたなぁ、、、ということでしょうか。平らな里の風景もまたのどかでいいものです。大武川の水の流れが陽に照らされてキラキラと輝くのを見ると、やはり山は人が住む場所ではなく、早く里へと戻りたいなぁなんて思ってしまいます。そういえば、この山頂〜七丈の間から見る八ヶ岳の景色が好きで、何度も撮ったなぁと思い返します。ちょうど斜め45度から眺める八ヶ岳。赤岳を筆頭に、八ヶ岳ではないですが遠くは蓼科山のピークが目立ち、この二つのピークがカニの目玉ようで、なかなか絵になるんですよね。日向山からだとただ対面から眺める感じになるんですが、甲斐駒まで上がると俯瞰している感じになるんですよね。天気がいいので八合目でもまったりと撮影し、ゆっくりと七丈へと下って行きました。
 テントを回収してそこからは一気に下り、2時間くらいで竹宇神社に到着。ぼちぼち晴れは続いておりましたが、さすがに刃渡り付近では雲が上がってきてしまいました。でもまあ、もう下山するだけ。さすがに登山口まで下ってくると夏らしい日の光が差しておりました。タクシーを呼び、むかわの湯へ。いやしかし、ジリジリとした日差しを感じます。さすがに下界は暑い。こんなとこ住みたくない、涼しい山がいい。。。

 タクシーに乗ってやはり最初に聞きました。
 「梅雨明けてますよね?」
 「一昨日か昨日、明けたよ。」

 だよね。
 何だか嬉しかった。

 しかし、今年は早過ぎです!!
 そしてやっぱ、明けてないんでは?

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