Report

— 過去に発表した作品の取材レポート。撮影時の舞台裏を、約2週間間隔でほのぼの更新。

REPORT - 08(改訂加筆)
30 Dec 2020更新

雑誌 岳人・2013年3月号掲載写真「谷川岳」


 う〜ん、なんだかガチャガチャの天気ですね。前回のレポートでは雪が少ない、過去最低なのでは、なんて言っていたはずですが、気づいてみれば日本海側はドカ雪です。先日まで10cmくらいとか言っていた場所も一気に2m超とか、なかなか侮れないものです。とはいえ富士山は今のところ少ないし、なんともうまくいかないようですね。でもこの年末年始の寒波で丁度良くなるのかな。寒くなってきて新型コロナも盛り上がってきていますので、なかなか大変な年末です。
 私の方はと言いますと、ようやく映像の編集にひと区切りがつきまして。痛かった肩の調子もなんだかんだで結構長続きしましたが無事良くなり、お次はカラーリング、、、、ということでまだまだモニターにかじりついております。この色補正、カラーグレーディングというのもまたなかなか大変な作業でありまして、ただただチョイチョイと色をいじればハイ出来上がり!という代物ではありません。写真ならワンカット、その場面の瞬間ですからそこまで時間がかかることはありませんが、映像になると場面が変わったり、とにかく尺というものが生まれますから、色補正の意味合いもやや変わってきます。ただ、悩ましいのがすごい頑張っても「見るモニター」がいい加減だとどうにでもなってしまうということ、でしょうか。。。
 よくドローン大縦走でも「この色はちょっと補正かけすぎ」とかのご意見を見かけたりします。気持ちはすごいわかるのですが、、、こちらで制作しているときはちゃんとした色表現ができるモニターで作業しておりまして、、、つまりその、皆様のテレビやモニター、ひとつひとつ実は色が結構違うのでして。。。おそらくそのお使いのモニターがちゃんとした色再現ができていないわけでございます。とは言えその色再現のためにしっかりしたモニターを全員に揃えるというわけにもいきませんし、この「色補正」というのはなかなか難しい問題であるわけです。ですがまあ作り手としては各々のモニターがそんなんなんだからテキトーに、とはいかず、とにかく「この色がオリジナルなんです」というちゃんとしたものを作らないとダメですから、まあちゃんとやるわけです。よくわからない人にはホントちんぷんかんぷんな話かもしれませんが、こっちの赤色とそちらの赤色は違うんです実は。というのだけわかっていただけましたら。んでもって本当はみなさんちゃんとモニターをキャリブレーションしてみんなの赤色を揃えないと「赤色」が場所によって表現できないわけなんです。んでもってキャリブレーションしたとしてもそのモニターが再現できる色空間が広くないとこれまた意味があまりないわけですが、まあそんなことを考えていると自分の色補正に意味があるのか、、、なんて悩んじゃうわけですが、まあなんだろう、もっと簡単にまとめると「偉くなくとも正しく生きる!」みたいな感じだろうか。
 色やタッチの違いというのは気づかない人には全く気づかないような細かいところでもあるのでなかなか効果が伝えにくいのですが、まあとにかく頑張っております。テレビ番組と映画の映り方の違い、というとわかっていただけるでしょうか。。。かと言ってネイチャーものだとあまりシネマティックに仕上げると意図が変わってしまうというところもあり、その狭間でなんとかいい具合のタッチを心がけております。ああもうちょっと効果を強められたら映画みたいなのに、、、と誘惑に駆られるところを必死にこらえております。
 ということで、言い訳ですが忙しいのですみません。レポートは改訂版になります。ちょうど今ガッツリ色作業をしております谷川岳のお話になります。いや、本当は新しいレポートを書こうと思っていたのですが、なんともゆっくりできるタイミングがなかったものでして。2月のレポートですのでドカ雪というくくりで同じということでお許しください!というわけでよいお年を。

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 この写真の撮影は2011年2月2日。もう約10年も前のことになるのだが、今でも強く印象に残っている。おそらくうまく天気が読めて理想の状態で撮影できたのと、取材自体がなかなか大変だったからだと思われる。いや、大変というほどのものでもないのだが、なんというか撮れるか撮れないか、そのギリギリのところでうまく拾えたというか。  いきなり話は逸れるが、山の写真というのはまず登りにいかないと撮影ができない。そして時としてそのときの登山が大変だったりもする。しかしだからと言ってその苦労を写真解説などに入れ込むというのは、それは個人の思い出であって正直好ましくないと思っている。えっ、お前このレポートでそんなことばかり書いてんじゃねーか!と言われるかもしれないが、ここはそういう個人の思い出を書いている場所でして、、、ここは作品を発表している場所でない、というわけです。時にはそういう裏話もいいよね(はーと)、ということで。つまり言いたいのは、作品を発表したときの写真キャプションに「強風に耐えながらシャッターを切った」とか「寒さに耐えながら2時間も待った」などで、発表した写真で何を見せたかったのか、というのを飛び越えてそういうのが書いてあると残念に思うのである。現場の大変さなど、どうでもいい、見せる写真がいかに美しいか、何を表現したかったのかが重要で、キャプションはそのポイントのみを補足するものであるべき、と思っている。写真がつまらないのに、自分が頑張ったみたいな印象を受けるものを見るとガッカリで、そうしてそういうキャプションをよく散見するのがこの山岳写真というジャンルであると思う。
 決してそういうのを軽蔑している、というわけでなく、おそらく扱いが難しいジャンルなのだと思う。困難な環境というのはそう人生で何度もあるわけでもなく、特別感に浸ってしまい冷静に判断できずに惑わされやすい。だからその人のそのときの感動は間違ってはいないのだが、「山岳写真」という作品に閉じ込めた場合、写真で写し撮ろうと思ったものは何だったのか、伝えたいものは何なのかを冷静に判断しないと、作品と作者が話していることが食い違ってしまうのである。食い違うとなると、作り手は一体何を考えていたの?というわけで。作品タイトルでいうともっとわかりやすいのかな。タイトルは「スノーモンスター現る」みたいにドーン!ときたのに、写真を見ると、ちょっと樹氷の形成弱くない?もう終わってない?みたいな感じだと、もっとスノーモンスターと言える写真を出せよ、と。
 話は逸れましたがまあそんなことを感じやすいジャンルでして、自分でも大変だった撮影のときの写真はよく見えてしまったりすることがあるので、作り手としては作品に対しては冷静に、謙虚にならないといけないところがある、と言いたかったわけです。なのに作品の作成過程である登山においては気持ちを疾走(オーバードライブ)させなくてはできなかったりもするという、バランスの保ち方が難しいジャンルと言えるかもしれません。。。勘違いしやすい、と言った方が合っているかな?
 話を元に戻しまして、2011年2月1日。このときの目的は松ノ木沢ノ頭1,484mから谷川岳の撮影、これ一点だけ。一点といっても細かくは写真はいっぱい撮るけど、このピークからの撮影のみ、という意味で一点だけ。松ノ木沢ノ頭は谷川岳稜線、一ノ倉沢をちょうど真っ正面から拝める場所で、すばらしい展望台です。白毛門まで行くとやや斜めヨコから見る感じになるので、高度感がありつつダイレクトに一ノ倉沢が写せる松ノ木沢ノ頭がまさにベストポイント。夏も秋もよく通っておりますが、雪の多い谷川岳、やはり一番雪がしっかりとついた時期の写真というものを撮っておきたい。ただ、懸念するのは予定通り2日の早朝に高気圧が乗っかるかどうかと、ちゃんとラッセルを予定通りこなせるかどうか、である。
 上毛高原からのバスを土合橋で下車し、さっそく白毛門方面へ。1日の天気図ではまだ冬型の気圧配置なので、谷川岳界隈はしっかりと吹雪いておりました。バスを降りてすぐワカンを着け、バス停からさっそくラッセルである。ワカンを着けても歩き始めから膝上くらいの積雪、いきなり先が思いやられる。ここはまだ駐車場のはずだよね。。。こんな日はもちろん誰も登っておらず、撮影にはその点はありがたいのだが、、、、進んでいるのか?これ。土合橋の標高が約680mなので標高差としては800mしかないわけだが、一体どのくらいかかるのかが全くわからない。無雪期はだいたい1時間ちょいで登ってしまうので、すんごく多く見積もっても4時間くらいで着くでしょう、と軽く見積もっていました。このときは。
 尾根に取り付くと胸あたりのラッセルでございます。まあもちろん急坂であるから胸あたりに雪面がくるわけで、胸まで体が沈んでいるというわけではないんですが、まず両手で目の前の雪を掻き分けて、胸の前にスペースが出来たら少しずつ足で段をつけてじわじわと登っていく、という作業を延々と繰り返すわけです。つまり、あまり余計なことを考えてはいけないわけです、はい。これ着くかなぁ、とか、何時間かかるかなぁとか考えると焦りにつながってくるので、何も考えずとにかく進んでみようという気持ちだけで進んでいく感じ。正直人生と同じです。4人くらいいると交代しながらテンポよく進んでいけるんでしょうが、職業柄基本単体なので、遅々として進まない。。。グラディウスのあのイクラみたいなオプションが4つくらい欲しい。上上下下左右左右BAとかやっても、、、もう大人になっちゃったんです。頑張るしかない。また嫌らしいのが谷川岳の雪質は標高もあってパウダーなどでは決してなく、この厳冬期でもウェアに付くと結構水になってくるというタチの悪い雪。それがじゃんじゃん降ってきて、積もっていくわウェアは濡れてくるわでいいことない。
 次第に辺りは暗くなってきて、一体何時間こんなことやってんだろうかと時計を見ると午後3時。午前9時にスタートしたから、えーと、、、もう6時間もこんなことやってる!それで一体何メートル登れたんだろうか。尾根を外すことはないが周りは吹雪いているので、どのあたりかは正確には掴めていない。こ、これ時間かかってるってレベルじゃねーぞ。。。明日の朝間に合うのかな、と不安が募る。ただどうこう言っても仕方がないのでとりあえずできるところまで進み、真っ暗になる前に幕営することに。結局午後4時ごろにラッセルをやめ、周りをスコップで掘り掘りしてテントを立てました。1,100m付近の一瞬平らになる箇所を超えているし、樹林がかなり薄くなってきているのでおそらく1,350mくらいまでは来ているものと思われる。でもそれでも7時間かかって標高差600mだから、残り100mとしてもあろ1時間は確実にかかりそうである。としても翌朝にまわすしかないだろう。この日の夜は結局遅くまで吹雪いており、夜中に途中で起きてはテント周りを除雪、その度に若干濡れるという、あまり嬉しくない夜でした。

ワカンは過去の遺物です?

 翌日。この日の日の出は午前6時45分。余裕を持って5時過ぎには出発しておきたい。吹雪いていたのが嘘のように静まり返り、空には星が広がっていた。まるで私を包み込むように。。。だが朝からラッセルラッセル。とにかく進まにゃ目的が果たせない。こういうときは何よりも一番焦るときである。ここまで来ているのに間に合わなかったら努力も水の泡、心臓をバクバクさせながら黙々と登っていくわけです。登るだけならそりゃあのんびり行けばいいけど、間に合うのか合わないのか、そんなことにアワアワしながら歩くのはなかなか辛いものです。
 樹林帯を抜け出ると、雪質がやや固くなってきた。おお、ここまで来れば!と前を見ると、、、いや、まだもうちょっとありそう。。。急げ〜、とペースアップして辿り着いた松ノ木沢ノ頭で午前6時40分、急げ急げとすぐに三脚を立て、カメラをセットして谷川岳が真っ赤に染まるのを見計らって撮影。ギリギリでなんとか無事任務を果たしたのでした。それからはもうのんびりで、東尾根をアップで撮ったり、白毛門を撮ったり、結局3時間くらいこの場所でずっと撮影を続けておりました。ヨシッ!と思う反面、撮れてしまうと案外こんなものかと思うのもまた事実。しかしもう一回やれと言われたら微妙だな、、、と思うのもまた事実。
 そんでもって下るのは哀しいほどに一瞬。テントまでは10分くらい、回収して土合橋まで、昨日苦労してラッセルしたトレースは見事に消えていたがそれでも1時間ほどしかかからなかった。登り7時間、下り1時間のコースタイムって、これな〜んだ。となぞなぞのような感じである。
 ともあれ、天気も予想通りバッチリ、ラッセルの課題もこなすことができたので、自分としては非常に満足の行く撮影だったと思う。これはなかなか撮れないよ、なんて思うと写真も良く見えてきてしまう次第であります。

 2年後にこの尾根を再訪し、今度はスノーシューを使って登りました。
 積雪量、雪質などはほぼ同じ感じ。
 前回の半分くらいしか時間がかからなかった。。。

 あんまりたいしたことないみたい。。。

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