Report

— 過去に発表した作品の取材レポート。撮影時の舞台裏を、約2週間間隔でほのぼの更新。

REPORT - 31
03 May 2018更新

2014年発行「厳選雪山ルート集」掲載写真「槍ヶ岳」

 

 いや〜、もの凄く急ぎ足で駆け抜けた春でしたね。そろそろ桜や麓からの撮影も(こんな事言っちゃあおしめえだけど)若干ながら飽きてまいりました。そろそろお山の上の風景を撮り始めたいところですが、撮影はこれから西日本や九州の予定なのでまだまだ麓っぽい感じで続きそうです。
 一概に「山」といっても麓からの山容も重要でして、まあそれもよくわかっているつもりなんですが、仕事ということを度外視すれば、やはり、山上風景の方が撮っていて楽しいです。細かく色々なところで撮影ポイントを見つけては撮影、と小回りが利くというか、なにせ自由度が高いのです。山と桜の写真を撮っていると、う〜ん後ろに電線が、、、とか制約も多いですし、人も多いですし。。。気持ちよくシャッターを切れる、これはやはり山の上に限ります(個人談)。
 でもなんなんでしょうね。登るのが好きなわけではございません。やはり撮りたいのです。まあその前に、山の風景を見たい、なのだと思いますが、私は登山家ではございませんので、静か〜にゆっくりとしたいのですよね、山で。もちろん体を動かすのも好きですが、正直そちらはトラックのほうが好きなもので。。。時折なんなんでしょうと自分でも思います。「山」は好き。でも景色が好きなので、そんなに登山には燃えるものがない。でも結構無駄に体力があったりする、という中途半端な生き物でございます。競技が800mというのも、また中途半端ですね。。。どっちつかず。でもそんなところが、実は山岳写真家としては向いているのかもしれません。あんまり登れると、やはり絵も活動も登山中心になってしまいますし、撮るばっかりだと、たいしたところに登れなかったり、と。最近は麓からの撮影が多かったからなのか、何だかそんなことを考えちゃいます。
 桜の撮影も一段落、というかあと一件残しているのですが、ちょうど大型連休中に満開を迎えそうですので、今年は棄権しようかと思います。さすがに連休中は動くのが厳しい。撮影地は人も多い。山での撮影と比べるとどうしても慣れなくて、人が多いのが苦手でございます。先週長野の方へ行ったのですが案の定三脚の列ができておりまして、本気で逃げようかと思いました。人が多い所が苦手な写真家、う〜ん、中途半端。
 さて今回の写真ですが、ちょうど時期的にコレ、ということで、「厳選雪山ルート集」からの出場です。ガイドブックですので、作品というほどのものではございませんが皆様いつも通り生暖かい目で見守り下さい。撮影は2014年4月24日。「厳選雪山ルート集」では極力新しいデータ、写真を用意したかったので、発刊ギリギリでの撮影です。ちょうどこの冬の間はこの本のために出ずっぱりで、これがようやく最後のピース、という感じでした。残雪期での紹介なのでこの五月連休にあたるわけですが、冒頭の通り、人であふれる連休に撮るわけにはいかないので、連休前に済ませる算段でございます。
 しかしながらこの2013-14年の冬山というのは、思い出すだけで本当にツイていて、積雪量多からず少なからず、ぼちぼち晴天も多く、気温も例年なみ、という年でございました。「厳選雪山ルート集」を出すにあたっては本当にありがたい年で、超貧雪の2015-16年や今年のような寒すぎだろバカ、からの夏かよ!の2017-18年だったら、的確な写真を揃えるのに苦労したと思います。これも偏に、西田メンバーの日頃の行いが良かった、ということでしょうか。
 計画としては槍ヶ岳と奥穂高岳を同時に収める、ということで、初日が移動日、2日間の晴天を拾って、4日目に帰京という予定です。晴れなかったら延長戦で連休にかかってきますので、晴れないわけにはいきません。横尾をベースに軽荷で槍ヶ岳を日帰り、翌日は奥穂高岳を日帰りの登って下りて、登って下りての、何が楽しいんだろう、という行動でございます。ガイドブックの写真が最低限必要ですので、こういう時は作品撮りはなるべく控えなくてはなりません。登っておきながら、朝夕に稜線にいられないというこのつらさと言ったら。。。
 4月23日のお昼ごろに上高地入りし、テクテクと歩いていきます。荷物はやや重たくとも、スペースシャトルのように燃料タンクとブースターは横尾に置いていきますので、まあ気が楽でございます。午後2時半すぎには横尾に到着、小屋が営業を開始する連休まで使用できる避難小屋を宿とします。翌日は暗いうちから出かけますので、早々と床に就きました。
 さて、24日は4時ごろに横尾を出発したと思います。5時半に槍沢ロッジ過ぎ、6時にはババ平に着きました。ここら辺りから槍沢の雪渓が広く見渡せる感じになってくるのですが、案の定誰も歩いていない感じで気分も盛り上がってまいります。大曲を過ぎてしばらくはそのまま登っていきますが、斜面がややきつくなってきたところでアイゼンを装着します。正直なところ、槍沢くらいの斜面であればリフターを立ててスノーシューでサクサク登っていきたいのですが、ラッセルが必要ない時期にそのためだけにスノーシューを持ってくるのは面倒ですので、ストックとアイゼンで登ります。でもホント、足首が疲れるから、スノーシューで登りたい。。。絶対楽だよ。なんかこう、この時期のためだけの、リフター付きアイゼンとか出ないかな。って文句言わずに登れよって言われそうですが。
 段々と標高を上げるにつれて、槍ヶ岳の穂先が存在感を増してきます。と、場所は同じなわけですから別に無雪期と景色は一緒と言っちゃ一緒なんですが、槍沢が雪で埋まると何かほんと、スイスにでも来た感じです。穂先を除くと一面雪で、写真的には殺風景と言えば殺風景なんですが、そんな雰囲気が好きで、このグリーンバンドから殺生ヒュッテ間のこの時期の季節は大好きです。涸沢だとこの時期でも何となく稜線の形の方に目がいくからなのか、やっぱり涸沢、という感じなのですが、槍沢は無雪期はゴロ石の槍沢から穂先にかけてが槍ヶ岳という感じから、この時期は大雪渓と、穂先のみが槍ヶ岳、みたいな感じになって別世界感を作り出している気が致します。ということで、ガイドのトビラ絵でも、このあたりを使いたいなぁということで載せさせていただきました。
 稜線を見ても、振り返っても、誰もいない。広い槍沢を独り占め、というのは実に気分がいいものです。最後の斜面を登って9時頃、肩に到着致しました。昨日ぼちぼち微妙な天気だけあって、見上げる穂先が真っ白でナイスな表情を作っております。ただし、見る限り当然まだ誰も登っていないし、ハシゴにもガッチリ氷が付いております。。。ここまではお気楽でただ登ってきましたが、穂先はワンストライクで交代どころか試合終了の上、選手生命を絶たれる、みたいな雰囲気が漂っております。ガイドブックなどで紹介するにはこれ以上ない適切な状況ですが、、、あれ登るのやだなぁ。。。ちなみに今年はライブカメラで見る限り、かなり雪が少ないので普通に登れそうです。でもこの時期というのはそういう日から、ガチガチの雪ありになったりとシチュエーションが様変わりしますので、写真的にはしっかり雪が付いていないと皆様に紹介すると油断を生みそうです。登れるときはいつも通り簡単に登れたりしますが、ガチガチに雪が付くと余裕で死ねます。
 穂先の中盤までは足場も多いのでサクサクといきます。が最後のハシゴ手前の斜面がアイスバーンになっており、その斜面を気持ちを込めて登っていきます。まだ誰も登っていないのでステップはなく、雪も硬いのでかなり時間がかかりました。慎重に一歩一歩という感じで、適当にあしらうと滑落しそうです。なんというか、技術というよりかメンタルが大事ですね。いやもちろんしっかりとしたアイゼン、ピッケルの技術、スムーズな体重移動など技術面も大切ですが、気が弱いと進まないかもしれません。ここの斜面が凍っているかいないかでだいぶ難易度が変わるかと。焦らず、呼吸を整えて一歩一歩、ヘルクライム・ピラーを登るイメージを保ちます。昇柱にとめどなく流れる油代は、一体月いくらかかっているのか心配だゼッ!
 最後のハシゴはびっしりと氷が付いており、油断して強い震動を与えようものなら上から硬い氷が降ってきます。いくらかピッケルでたたいて少し落としたあと、ハシゴを登っていき、ようやく頂上です。肩から1時間くらいかかりましたでしょうか。無雪期で混んでなければ私の足で15分くらいで登れますので、いかにゆっくり慎重だったかが伺えます。まあ、また今度は地獄昇柱を下らなくてはいけないので、山頂に着いたからといってひとつもうれしくないのですが。。。
 せっかくなので山頂で1時間ほどのんびりと写真を撮っておりました。時間的にもちょうどお昼、光線もトップライトで全体的にはぼんやりとした感じですが、のどかな雰囲気は心地よいです。暑からず、寒からずの気温も気持ちがいい。本当は朝夕もこの辺りにいたいですが、仕方ないですね。明日の天候も良さそうなので、明日は明日で奥穂高に向かわなくてはなりません。山頂からの下山も慎重で、同じく1時間かかりました。いや〜疲れました。体が、というより気持ちが。
 肩から槍沢を一気に下山、というかほとんど尻で下ってきて、約2時間半で横尾に到着。午後3時半前には下りましたので、翌日に備えてぼんやりと過ごします。

また、登るのか

 翌日はまた4時頃に横尾を出発し、8時前には穂高岳山荘におりました。いま振り返ってもこの時の気持ちがまざまざと蘇りますが、本当に自分の写真が、作品が撮れないのが堪えます。こういうとき、仕事というのはつらいです。と言ったら、山に登って仕事になってるんだからいいじゃねーか、と言われそうですが、山に登ることよりも、作品を撮ることがやりたいわけですので、あくまでもこれは仕事なわけです。もちろん途中で拾えるものは拾っておりますが、肝心なメインが行動に縛られてしまっている。やりたいことで食っているじゃんと思われるかもしれませんが、内面は案外複雑なものでして、私とすると、撮りたい絵だけに100%力を注ぎたいわけです。そう思うと最近は麓の撮影が多いですが、撮りたいものを撮っていますので、そろそろ飽きてきた、なんて言ってちゃあいけませんね。


 そんなこんなでこのときはガイドブックの写真を中心に仕事をしてきたわけですが、
 自分の作品が撮れないから何たらかんたら文句をたれていた割には、
 槍も穂高も無事終わって、充実感に満ち満ちて上高地を後にしたのをよく覚えています。(〃'∇'〃)ゝエヘヘ

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