Report

— 過去に発表した作品の取材レポート。撮影時の舞台裏を、約2週間間隔でほのぼの更新。

REPORT - 17
08 Sep 2017更新

雑誌 アサヒカメラ・2016年7月号掲載写真「槍ヶ岳」

 

 この写真は写真雑誌・アサヒカメラ2016年7月号の山岳写真撮影特集「槍ヶ岳、穂高連峰を撮る」の特集トビラに掲載したものです。先日のNHK総合の番組でもご紹介いたしました双六岳の双六小屋をはさんで向かいにある山、樅沢岳から撮影した写真でございます。
 樅沢岳に関してはもはや説明の必要がないほどの槍穂高の撮影ポイントで、若かりし頃から私も何度も何度も、本当に何度も足を運んで撮っている場所です。やはり、槍穂高が絵画的に一番美しく見える所で、なんでこんな絵的にぴったりの距離、角度の場所にピークがあるのか不思議になるくらいです。場所が良すぎて写真家がどうこうする必要もなく、ここで撮れば誰だって美しい写真が撮れる!と言えてしまうのですが、言われてしまうと私の仕事の意味がなくなってしまうので、言わないことにしておきます。あえてね。
 私が山を撮るときに、というか見てるときに、いつもその対象の山を一体のキャラクターとして捉えています。というか、これは人間であればおそらく大方の人がそんな風に見ているとは思うのですが、、、、如何せん私は友達がいない寂しい人なので、他の人がどういう風に山を見ているかをあまり知らないという。所謂擬人的、ということになるのですが、山頂ピークが頭、そこから両方に延びる尾根が腕、山頂下の壁が胸、ということになります。そのキャラクターをキャンバスの中に格好よく収めていく。どの角度で収めるともっとも美しくそのキャラクターが引き立つか、と考えて撮っていくわけです。わかりやすくいうと各地の山をモビルスーツに置き換えることもできるわけで、たとえばボーコン沢の頭から眺めた北岳だとズゴック(日本二位の山なのでシャア専用にしておきます)、樅沢岳から見た双六岳なんかは空母ガウ(モビルスーツじゃない)なわけです。そんな感じでガンプラの箱をデザインするようにイメージをしていくという、もう何を言っているのかよくわかりません、という方が続出しました。となると樅沢岳から見た槍ヶ岳は、、、、ハンブラビか?
 ともかくそういうわけで(どういうわけで?)、樅沢岳から見る槍穂高というのは、あとは「撮るだけ」という完璧なポージングで見えているわけです。ただここからが問題で、日の当たるライティングが重要ということになるのですが、見えている面がすべて西面なため、ここでのバッチリタイムが午後から夕方となるわけです。山の天気というと、ほとんどが朝は晴れ、気温が上がって昼からガスで曇り、というのが定番ですので、この時間帯にしっかり晴れるというのが難しいのです。まあ、これが通い詰めることになる原因といいますか、格好よく言うと「ロマン」になるのですが、夏場はなかなか撮れなくて、夕方でも雲が上がりにくい秋口が撮りやすい傾向になります。
 さて、この時の撮影はつまりその秋ねらいで、2012年は9月26日になります。入山は9月24日。東京を出発し、新穂高温泉をお昼ごろ歩きはじめ、まあ双六小屋まで着けばいいということでだらだらと歩いて行きました。この時の取材は自分の作品取材に加え、ある雑誌の秋ルポ取材で黒部五郎岳も含んでいたので2日後まで晴れなくてはならず、かつ紅葉もキレイでなくてはならない、という中での撮影行。こういうのはちょっとプレッシャーがかかります。自分の作品撮りだけであれば最悪外してしまってもまあ仕方がないということもできるのですが、一応請け負ってしまった関係でテキトーに済ませられないという。ただ私の場合はそういう請負取材であっても取材費などは同行モデルさんの分もすべて自分持ちで動いているので、まあ最悪の最悪は何かで取り返しがつけられるように動いています。やっぱり天気が悪かったり、紅葉の状況が悪いものを売り物である誌面に載せる、というのが許せないのであります。ときどき天気の悪い写真を雑誌でよく見かけますが、、、やっぱり残念。私はそういうのが嫌いなので、自分で払ってでも良いものを載せたい。北斗の掟は俺が守る!というやつです。曇ってる写真なんか見たら、YouはShock!
 新穂高温泉から天気はよくなかったですが、鏡平では雨が降りそうなガス。正直ちょっとうれしかったり。。というのも、晴れていると少しでも急いで樅沢岳に登らなくてはならないからです。やはり最高の撮影地、この界隈を歩くとタイミングが合えば必ず足を運ばなくてはという使命感のような思いがあり、体が疲れているときはこの思いがちょっと邪魔だったり。双六小屋から樅沢岳というのがまた絶妙な距離で、普通のコースタイムで約40分、ちょっと面倒だな、いや行けそう、行かなきゃな、という微妙なバランスの場所なんです。近ければまあ問題ない、あっさり結構遠ければ無理せず諦めるか気合いを入れて頑張って行くかなんですが、そのどちらパターンでもない距離と標高差というのが嫌らしいんです。さらに登ってみないと槍穂高の状況が小屋からはわからないという。双六小屋にいたら登らないと見えないのでまあだいたい登るんですが、鏡平でガス、となると状況がわかっているのでありがたい限りです。
 25日は朝は雲が多かったですがぼちぼち回復傾向で、翌日は晴れそうなので少し安心。ただ翌日26日は午前中に黒部五郎カールの撮影、黒部五郎岳登頂、帰ってきて午後に双六岳、そしてできれば夕方に樅沢岳、と一日中晴れてくれなきゃ困るので、そうなるかどうか。秋とは言ってもそんな日はなかなかないわけで。。。とりあえずこの日は黒部五郎小舎まで行き、その問題の翌日に備えます。25日はぼちぼち晴れと言える天気でしたが午後は雲が出ましたので、26日はどうなることやら。まあ、欲張り過ぎと言われればそれまでなんですが。
 さて、問題の26日です。小屋の周りの草に霜が降りるほど、ぼちぼち冷え込みました。いい感じです。カールで頃合いの時間になるように歩きはじめ、撮影開始です。いい色が出たナナカマドの株もあり、いい感じの秋の黒部五郎カールが撮れてます。こうなると同行モデルさんをそっちのけで撮影に勤しみます。そろそろいい加減にしろよ、という視線を強く感じます。だって、結構平気で1時間くらい放置したりしますから。。。。でも、こんないい時って二度とないかもしれないわけで、そんな歩いているだけの同行モデルさんの気持ちなんて知りませんよ。じゃあ一人で来いよ!と言われそうな感じですが、言われる直前くらいには撮影を切り上げますよ。カールから黒部五郎の山頂に上がり、稜線伝いで小屋に下ります。山頂では相変わらずの快晴、これはイケる。確信、というかそう思わないとやってられないので何度も心の中で「これはイケる!」と叫び続けます。雲上がってこないかな、雲上がってこないかな、と内心ハァハァ焦りまくっているんですが。
 黒部五郎小舎に下ってから、双六岳へと戻ります。黒部五郎カールは午前中、双六岳は午後、樅沢岳は夕方、これをなんとかこの一日で撮りきってしまいたいわけです。三俣蓮華岳に上がったとき、まだ雲は上がっておらず、思いましたよ。これはイケる!と。ここで思い出すのが昔の成功体験で、このときから十年ほど前に同じようなシチュエーションがあり、この三俣蓮華岳でくっきりと見える槍穂高が見えて、これはイケる!と思いましたが結構西日になってきており、うおー、こんな日の樅沢岳を逃してはならない!と思い三俣蓮華から双六小屋まで走りきり、双六小屋でテントを立てて息を上げながらダッシュで樅沢岳に上がってぎりぎり西日当る槍穂高を撮ったことがありました。もうね、赤兎馬を駆る呂布のようでしたよ。槍穂に向かって「貂蝉〜!!」という感じ。まあ樅沢岳に上がったら一番いい撮影場所を双六小屋の先代様、小池潜さまがデデン!と構えていましたので「と、董卓!!」と思いましたが。刃は向けておりませんよ。
 そんな成功体験を思い起こし、イケる!と思ったのも束の間、笠ヶ岳の方からはちょこっとずつ雲が上がってきている模様。イケる、イケる、と念じながら双六岳へ急ぎます。何だか、こんな気持ち悪い奴と同行しているモデルさんもちょっとかわいそうな気がします。正気の沙汰じゃない。
 とりあえず午後の日差しの双六岳に辿り着き、撮影を始めます。穂高方面にやや雲が湧いているものの、なんとかなりました。撮れました撮れました、ハァ〜。とりあえずここまで撮れれば及第、最後に樅沢岳が撮れれば満点でしょう。双六小屋へ下り、いらない荷物を置いたらすぐに樅沢岳へと向かいます。槍ヶ岳はさっき双六岳で見えていましたので、大丈夫だと思います。

私は、私がいなければ時代は変わらないと感じているに過ぎない

 そんな言葉が自然に出てしまうほどの一日でした。もう後は日が沈むまで、槍穂が赤く染まるまで、この頂でゆっくりじっくりと撮るだけです。シャッターを切るたびに、ッシャオラー!ッシャオラー!という叫びが左俣沢にこだまします。静かですね、山って。という叫び(本当は叫んでないですから)とともに撮影したのが今回の写真です。
 このあと、槍ヶ岳は赤く染まって、それはまた美しかったんですが、小屋に戻ってオーナーの岳彦さんに見せたら、「あんまり染まってないね。。。」と言われました。そ、そりゃあ住んでる人には敵わんというか、その、あの、、、、ッシャオラー!


 しかしまあ実のところ、先ほど書いた十年前のときは、この黒く潰れている左俣沢のところが雲海で埋まって、それはそれはもっときれいな夕方だったんですよね。
 実は私ももっといい写真を持っているという。
 なのに、一体いつまでこの樅沢岳に通うんでしょうか。
 気がついたら、おじいちゃんになってもここで撮ってそうです(´・ω・`)

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